「月下上海」で松本清張賞を受賞した当時、内容もさることながら、社員食堂勤務ということでも話題になった山口恵以子の書き下ろし作品です。図書館で初めてこの本を知り面白くそうなので借りてきました。
航空機事故(日航のジャンボ機事故を思わせる)で485名中480名亡くなり、わずかに生存していた5名の中に主人公七原慧子がいました。両親、夫、娘二人を亡くし、慧子自身は右手足の骨折、打ち身、擦り傷で済み、生存者の中では一番軽傷でしたが、事故から一週間後に知らされた家族の死で、彼女は不眠症に陥りました。運動、酒、睡眠導入剤など試したものの一向に効かず、ある日思い立ったのが睡眠を人から盗むということでした。空腹の人は食料を盗み、お金のない人はお金を盗む。ならば眠りを欲しい自分は眠りを盗めばいいと、ある日結論付けると早速行動に移ったのです。如何にして人の睡眠を盗むか?それはラブホテルに張り込み、不倫している人間かどうか興信所を使って調べ上げ、脅迫状を送ってホテルに呼び出し、知られたくない秘密を握られた人間の哀れな顔をこっそり写真に撮っては自分の部屋に貼ることでした。このことが彼女に深い眠りをもたらしました。
その後も脅迫を繰り返しつつも、より多くの睡眠を手に入れるために銀座の高級クラブの会計係に採用されます。そこで慧子が気にかけていたホステス繭と同棲していたカメラマンの死、慧子の家に置かれていた繭の死体、航空機事故の原因追及に関して事故があった当時の運輸大臣と、調査にあたった大学教授の学長選挙に絡む癒着、高級クラブの脱税等話は展開していきます。そして家族5人を失った代わりに得た慰謝料や生命保険、旅行保険など莫大な現金は、従妹やその恋人に狙われることになりますが、60半ばになった慧子にやっと平和な日々が訪れます。スピーディーな展開にあっという間に読了しました。
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