シェエラザード       浅田次郎

2015.11.17

 昭和20年4月1日に台湾沖でアメリカの潜水艦の攻撃により2044名の命と共に沈没した「阿波丸」の悲劇を基にした小説。本書では「弥勒丸」となっている。「弥勒丸」は横浜―サンフランシスコ間航路に就航させるべく昭和16年9月に完成した豪華客船だったが、一度として客船として使われることなく、病院船として戦争にかり出され白いペンキを塗られ、赤十字のマークを付けて南太平洋の島々を巡っていた。しかし、ある日妙な命令が届いた。赤十字を緑十字に塗り替えて中立国のソ連のナホトカから連合国側の食料や衣料を東南アシアに点在する日本軍占領地にいる捕虜に届けるというものだった。戦争も終局を迎えて、日本では彼らに対する待遇はひどくそのことを憂えた連合国側が捕虜に対する物資を運ぶべく依頼してきたのだ。病院船は国際法上、いかなる攻撃も受けないことになっており、このたびはその上に臨検又は障害も受けることなく安全は保障されたものだった。ナホトカから門司、台湾の高雄、香港、サイゴン、シンガポール、スラバヤ、ジャカルタ、ムントクと周り再び、シンガポールで日本人の軍人とその家族、諸官庁の職員、企業の社員その他帰国を希望する一般の日本人等2000人以上と公にはできない軍関係の「あるもの」を乗せ出航した。ところが台湾の沖で予め決められていた進路とは違う方向へ舵を切り、4発の雷撃によって沈没したのだ。ある日、中国人がこの船を引き上げる目的で来日し、元銀行員と元自衛隊員が経営する怪しげな金融業の二人に100億円融通してくれるよう強要してきた。そこから戦中と戦後が行きつ戻りつしながら話は進む。はたして積荷はなんだったのか?たった一人生き残ったパン職人は?題名になった「シェエラザード」は病院船の時は夜のひと時乗組員を癒し、シンガポールから大勢の人々でごった返す船内にも響き渡った曲だった。

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