好きな作家の一人宇江佐真理さんのエッセイ「笑顔千両」で紹介されていた映画切腹(近年一命という題名で再映画化)の原作滝口康彦の「異聞浪人記」を始め、武士の世界の悲哀を描いた6作品を読む。「異聞浪人記は」大名屋敷に出向いては実際そのつもりはないのに玄関先で切腹すると言って、相手の情に訴えてうまくいけば召しかかえられたり、なにがしかの金子をいただくという悪習が浪人達の間でその頃流行っていた。浪人になり病苦の妻子をかかえ貧しさゆえに井伊家の玄関先にたった娘婿は、はからずも本当に切腹しなければならずその死に様はあまりにも無残であった。その恨みをはらそうと義父である津雲半四郎がとった行動とはスカッとした敵討ちではなかったけれど少し溜飲が下がった思い。その他5編いずれも身分の違いや武士の主従関係による生きづらさや悲しみがしみじみと伝わってくる作品。
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